おさかな

あたまわるめの感想文

映画感想「独裁者」

言わずと知れた、ナチスドイツをネタにしたコメディ。

第一次大戦後、記憶を失くして眠っていたユダヤ人の床屋チャーリー。彼が眠っている間に政変が起こり、トメニア国は独裁者ヒンケルによって支配されていたのだった。ハンナをはじめとするユダヤ人街の皆さんや戦友シュルツと共に戦おうとする床屋チャーリー。内相ガービッチをはじめとする部下と共に世界支配を目論む独裁者ヒンケル。瓜二つの二人の男の命運はいかに、という感じのおはなし。

 

キャラクター ★★★★☆
ストーリー  ★★★★☆
全体的に   ★★★★☆
オススメ度  ★★★★★ 有名作ですし

 

以下ネタバレ感想。

 

お噂はかねがねのチャップリンだけど観るのは初めてだったので、どんなもんなのかと緊張。ブラックコメディとも聞いたことがあったけど、序盤の戦場シーンでもうすでにギャグが散りばめられてて楽な気持ちで観られてよかった。床屋のとぼけた感じのキャラがかわいいというか、随所から好い人そうさが伝わってきてそれだけでもうなんかよかった。最後の大演説がもうほんと喜劇で最高だなと思った。ゲットーの皆さんもいい人そうだしきっとみんな助かるんだろうな。助かってほしい。

個人的にメチャクチャ好きなのはヒンケルとナパローニが喧嘩する辺り。ていうか対ナパローニにおけるガービッチが本当につらそうというかバカじゃねえのという感じで最高だった。序盤まともでつよそうなフリしといたくせにやっぱりコメディの登場人物という感じでよかった。ギャグらしいギャグが独裁者サイドに寄ってた印象があり、やっぱり独裁者を笑うための映画なのかなと思った。自分の笑いのツボの問題かもしれないけど。アホみたいな独裁者のせいで人々が苦しむということなのか。

全体的にギャグが盛り込まれててずっと笑ってられるのに最後に頭に残るのはそれだけじゃないという感じで、すごいな。

 

ヒンケルとガービッチとヘリングはナチスの皆さんが元ネタ。

ヒンケルは勿論ヒトラー。メンタル弱そうな子供おじさんでよかった。ガービッチに持ち上げられ扇動されるシーンで「神のように」とか言われて不安がったり、シュルツに裏切られてヒステリックに叫んだりと情緒不安定そうさが元ネタに忠実だと思った。側近のガービッチがいないと何もできなさそう。

ガービッチの元ネタはゲッベルスヒトラー並の演説力や大衆への扇り他あらゆる宣伝でナチの信者を増やしまくった功労者。ヒトラーの台頭はその宣伝なくしては成り立たなかったと言われるくらいなので、ガービッチがヒンケルより強そうなのも頷ける。というかガービッチの役割がとてもでかい。ヒンケルの独裁と見せかけてコイツが裏で操ってんじゃねえのという感じ。演説原稿もこいつが書いてる。そしてヒンケルへの態度も妙にでかい。足とか組んでる。

ヘリングの元ネタはゲーリング。ガービッチがまともなのに対してこちらはヒンケル以上にコメディ色が強くなっている。何してもダメなのでだいたいヒンケルに怒られてる。この三人の中ならゲーリングが一番いいやつそうなのに。こいつもモルヒネやってんのかな。

 

 

個人的に好きなのはガービッチというか、元ネタのゲッベルスが好きなのでそういうことになりました。しかし濃ゆいデフォルメがなされたコメディキャラの中で一人冷静な彼はちょっと異彩を放っており、やはり「まともなやつが一人いないと面白くない」ということなのか?と思っていたら後半の対ナパローニの辺りで面白くなってくれて本当によかった。ギャップ萌えだ(?)

他のキャラに比べてガービッチだけ異常に似てないと思ったんだけど、これはあえて真逆にする皮肉だったりするのかな?脚を引きずらない金髪長身の男というのは、、、

一番笑ったのはナパローニから電話がかかってくるシーンで、お前が出ろ!と言われたガービッチが頑張るところ。精一杯の愛想良さお前それ総統と喋る時できんのか。穏やかに話せとか命じられて穏やかにwellwellwell…とか言って愛想よく頑張るガービッチほんと面白い、ほんとすき

一人だけ拍手しない・拍手が適当・立ち上がるのが周りより遅い・「黒髪は危険」など全体的に敬意が足りない。演説にダメ出ししたり攻撃が足りないと指摘したりもうお前が独裁せえよ。あと過熱したヒンケルをたしなめる様相が身長差のせいで完全に保護者のそれなのでほんと笑う。しかし遠景でもガービッチとわかる動作をしている辺りかなり芸が細かく、こだわりを感じる。

 

ナパローニがヒンケルに言う「時計が二分遅れてるぞ」っていうのはやっぱりトメニアはバクテリアより遅れてるっていうことなんだろうか。

 

なお吹き替えは二種類あるが旧版はもう聞けない模様。なんで?

それから字幕よりも吹き替えの方が細かい台詞のニュアンスが伝わるかも。古いので仕方ないのかもしれないが字幕がかなりざっくりした情報しかくれない。そんなもんか? 英語が多少聞き取れるなら字幕でも大丈夫かもしれない。ヒンケル演説を中継で訳すテレビの台詞なんかは吹き替えの方が毒がわかりやすい。

新版のチャップリンの吹き替えは山寺宏一氏。あの難解なヒンケル語をどうにか「それっぽく聞こえてだいたいの意味はわかるけど正しい日本語ではない」という謎言語に落とし込んでおり、すごいな~と思った。原語版を英語圏やドイツ語圏の皆さんが聞いたらこんな気持ちになるのか?というのを味わうことができたんじゃないかと思う。また床屋の吹き替えも、原語版では無言だった部分に小さく相槌を入れるなどの工夫があり、個人的にはよりいい人そうさが増したな~という印象。でも賛否は分かれるところかもしれない。どうしても「山ちゃん」感が強くなっちゃうというのもあるし。個人的には好きだけど。しかし旧版のヒンケル演説はどのように吹き替えられてたのかすごく気になる。ちなみに旧版を吹き替えたのは愛川欽也氏とのこと。博士の異常な愛情の旧吹き替えにおいてマンドレイク大佐役を演じた人物でもある。ぜひ一度聞いてみたいものだが…。それとも原語版の流用かな。

 

ヒトラー本人も実際この映画を観たことがあるらしいがどう思ったのか本気で気になる。チャップリンじゃなくてもぜひ感想が聞きたい。というかヒンケルが自分であるというネタ以外に二人の部下が誰のパロディなのかわかったんだろうか。そして映画好きのゲッベルスがこれを観たのかも気になる。