おさかな

あたまわるめの感想文

映画感想「わが教え子、ヒトラー」

第二次大戦末期のドイツが舞台のコメディタッチのヒューマンドラマ。

敗戦濃厚な中、士気高揚のためヒトラーにひと席打たせたいゲッベルスだが、精神を病みつつあるヒトラーは取り合わない。そこで演説の講師として起用されたのは、収容所で強制労働中のユダヤ人で元俳優アドルフ・グリュンバウム教授だった。教授の指導に徐々に心を開いていくヒトラーナチスへの憎しみは捨てきれない教授とその家族、そしてゲッベルスたちの暗い画策。皆さんの行く末はいかに、という感じのおはなし。

 

キャラクター ★★★★☆
トーリー  ★★★★☆ 好き
全体的に   ★★★★★ 好き
オススメ度  ★★★★☆ ナチスの皆さんを軽く知ってるとオススメ

 

以下ネタバレ感想。

 

皆大好きナチスネタの中でも、ヒトラーの人となりや精神の解釈に重きを置いた作品。ヒトラーの生い立ちをなんとなく知っている人なら結構わかるだろうと思う。なお全体的に人間模様重視のため、歴史の考証なんかは史実とだいぶ異なる模様。真面目な歴史モノだと思ってはいけない。色々な意味で

日本版のポスターは感動ヒューマン物だよ〜〜という顔をしているがちょっと感想など調べたところ「コメディ」との文字があり、ナチスとコメディ好きなのでワクワクしてしまった。個人的に総統は美大落ちのメンヘラというイメージがあり、そのへんによくマッチする姿だったのでよかった。よかった? 優しい人に依存するとかすぐ怒るとか泣くとかがあってよかった

テーマの一つはヒトラーの孤独だろう。父からの愛に飢え、親衛隊にも見捨てられつつあり、縋る先はユダヤ人。でその唯一信じられるユダヤ人の皆さんの腹の中にあるのは当然憎悪と殺意なわけで、最終的に死ぬより嫌な形で手痛くやられるという。孤独がつらくて泣きながら縋った教授一家でさえ総統を憎んでるの最高では?自分を信じた相手をひどい目に遭わすっていうのはお前が最初にやったんだからな

観てるあいだになんかヒトラーってかわいそうなやつじゃん!こんなん教授でも同情しちゃうじゃん!とか思うと甘いこと言ってんじゃねえ殺すぞみたいな結末が待ってるのでよかった。ヒトラーは没落してこそヒトラーだなあという気持ち。ユダヤ人に同情される設定とか本人が見たら憤死しそう

しかし教授が最終的にどうするのかは良くも悪くもよくわからないまま進んだ印象。結末を考えるとあれはあれでよかったのか。ヒューマンドラマとは一体

殺す側と殺される側の間に芽生えた奇妙な関係と言えばヒューマンドラマぽいか? そして最終的に裏切られていくというか元々愛されていないというか、ヒトラーユダヤ人に愛されるわけないじゃん(笑)みたいな結末で、よかった。

総統が教授に語った父親とのトラウマの一つが「人前で恥をかかされたこと」。もう一人の父親のようなグリュンバウム教授にも最終的に同じように恥をかかされ、二人の関係は終わる。しかしこの後教授が生きてたら総統はどうしたんだろうか?暗殺計画の噂を聞いても教授を信じた総統はこの後どうしていたんだろう。

結果的に教授によって総統の命が救われた形になっているのがなんとも切ないというか空しいというか。

 

 

総統がとにかく子供おじさんでよかった。ヒンケルも真っ青では?そうでもないか。全体的な軸として父と子っていうのがあるように見え、父に愛されなかった子供の末路という感じ。それを埋めるのがグリュンバウム教授なわけだ。彼は実際家庭を守る父親なわけだし。実際の父親とうまくやれなかった関係を擬似的にやり直していくみたいな感じだ。結局今回のお父さんもお前を愛さなかったけどな

ゲッベルスの出番が多くてよかった。コメディ寄りのゲッベルスは小物感が強く女関係のダメさがネタにされてて面白い。しかし総統への忠誠がちょっと足りない感じ。お前ガービッチか?家族と心中しなさそう。ていうかどっかで見たことあるゲッベルスだと思ったらイングロリアスバスターズと同じゲッベルスだった。あのときは総統に褒められて泣いてたのに…

ヒトラーの親衛隊の皆さんが神経質そうに部屋を覗き見る姿ほんと笑う。笑わない? そのマジック絵画は何だ。ドイツの技術は世界一。あとヒムラーの敬礼ギブス大好き。しかしゲッベルスヒムラーシュペーア以外はよくわからなかったので、知識をつけてからまた観たい。シュペーアほんといいやつそう。ちょっと総統好きすぎない?

ナチスの皆さんって数え切れないほど二次創作のネタにされてるけど勝つ回ってあるのかしら。やっぱ毎回惨めに死ぬルートなのかな?勝ち回作ったら叩かれんだろうな〜というのと個人的にナチスは没落まで含めてこそと思うので常に負けてほしいというのがある。悪人が正しく負けて惨めに死ぬっていうのは大事なことですよ

個人的には邦題も大好き。子っていう語が入ってる辺りが素晴らしい。原題は原題で終盤の台詞にかかってて素敵だけど。ポスターは海外版のが最高だから一度は見よう!

吹き替えは個人的にはいまひとつかな。自分の中のイメージには合わなかったというか

しかしヒトラーの赤裸々な過去を映画で盛大に晒していくっていうのも冷静に考えるとなかなかキツいものがあるし本人が知ったらもう十回ぐらい憤死しそう